「あの日。雄太郎さんと階段を昇って来た優花は、すっごいすっきりした顔をしていて心配ないって思ってたけど……大事なこと忘れてる」
 


「忘れてるって……私はあの日雄太郎さんに記憶の書き換えを消すための薬をもらって……」
 


「記憶の書き換えを消す?記憶を戻すんじゃなくて?」
 


「うん。もともと私の記憶は消されたんじゃなくて、『記憶を忘れるように』書き換えられたものだったの」
 


「そう、なんだ……」
 


一紀は、考え込むようにして黙ったあと、私の手を握ったまま歩き出した。

一紀が向かった先は、雄兄と美由紀さんが待つ大学近くの駐車場だった。

駐車場に着くと雄兄が私たちに気づいて車から降りてきた。

雄兄の隣に座っていた美由紀さんも後を追うようにして降りてきて私たちを迎えてくれた。
 


「どうだった?」
 


「うん。俺と優花、二人とも合格」
 


「本当?良かったじゃん。おめでとう」
 


美由紀さんは、私と一紀を包み込むようにして抱きしめてくれた。
 


「良かった。お祝いのごちそう無駄にならなくて」
 


雄兄は、車の後ろの扉を開けて、私たちを車に乗せた。
 


「ありがとうございます」
 


一紀は、さっきまでの雰囲気とはまったく別人のように、いつもと変わらない笑顔で微笑んでいた。