会場の大学に着き、車を降りると大学の校門前で白い息をはあっと、まるで遊んでいるかのように吐き出している一紀の姿が見えた。
 


「一紀」
 


「おはよう」
 


道路を渡って一紀に駆け寄ると、一紀はこんな日でも変わらない笑顔でにっこりと微笑んだ。
 


「寒くない?大丈夫?」
 


「平気。電車降りて歩いてきたから、割と体ほかほかしてる。それより忘れものないか最終チェック。今日必要なのって受験票と筆記用具と内履きと……」
 


一紀は背負っていたリュックをごそごそとかき回しながら確認していた。

そんな私たちを道路の向こうから雄兄が見守ってくれていて、目を合わせてにこっと微笑むと左手をさっとあげて車を発進させた。
 


「一紀、行こうか」
 


荷物を確認している一紀のブレザーの裾を掴み、引き寄せると、一紀は「おう」と言って、リュックを背負った。

こんなに大事だというのに、足がとても軽い感じがした。

 


受験が終わったら伝えよう

 


私は、これが終わったら雄兄から卒業する。

 


一紀の気持ちに答えて、今まで支えてくれた雄兄から卒業するんだ

 


そして、美由紀さんと一緒に旅立つ雄兄を、笑顔で見送るんだ



それが今まで私を支えてくれた雄太郎さんに出来る恩返しだと思うから。

一人でしっかり進んでいける強さを見せるチャンスだから。