「そうして暗くなるまで一緒にいて……海がぼうっと青く光った頃に、ようやく俺たち自己紹介したんだ」
 


「それから悩みを相談するくらい仲良くなったってことだよね……」
 


「そうだよ。その『悩み』は、聞きたい?」
 


答えを委ねる雄太郎さんに、私は答えるように頷いた。
 


「俺の悩みは、自分の家が火事になった時、両親を助けることなく自分だけ逃げて生き残ってしまったことだった。それを聞いた優花は何て言ったと思う?」
 


それを聞いた私は……今その悩みを聞いた私は答えに困っていた。
 


「……その時、悩みを聞いたのは『彩智』でしょ?私は……分からない」
 


「そっか……そうだよな。ごめん……その時『彩智』は、俺がすごい人になったら、両親が死んだことにも意味があるんじゃないかって言ったんだよね。助けられなかったことは、仕方のないことだし、昔のことくよくよ悩んだってしょうがないんじゃないって」
 


『彩智』だった時の答えを聞いた私は、無性に今『優花』でいることが悲しくなってきた。

雄太郎さんが本当に欲しい答えは、『彩智』が持っていたんだなと。

自分の過去の辛い話をしている最中も笑っているのは、『彩智』という存在が大きかったのだと……。
 


「彩智の悩みは、母親が自分の存在を鬱陶しく感じているということと、学校でいじめにあっていることだった。家にも学校にも行き場を無くした彩智は、平日も休みの日もこの海に来てたよ。彩智にとって、この場所だけが自分の居場所だとそう言っていた。そんな彩智を放っておけなくて、俺は数日だけいるはずだったこの場所に三か月以上いたんだ。そんな俺を心配して、美由紀が俺を迎えに来たんだ」