「疲れた?」
「うん、ちょっとね……」
菜子は私に答えると、そのまま寝息を立てて眠ってしまった。
菜子の眠っている顔を見ていたら、なんだか私も眠くなってきて、隣のベッドに体を横にした。
何も会話をしていないと、あの言葉が私の頭の中に繰り返し繰り返し飛び込んでくる。
『私は、あなたを捨てたの』
もしこの言葉が本当のことだったとしたら、雄太郎さんが言っていた私の『辛い過去』というのはこのことなのではないだろうか。
そうだとしたら、雄太郎さんが本当のことを隠す必要はないのではないか。
もしかしたらこの状況でならあの時聞けなかったことが聞けるのかもしれない……。
「ああ……もうやめやめ。今考えたところでどうしようもないって。聞くからには直接聞いた方がいいだろうし」
私は、そんな悩みから逃げ出したくて、ベッドから起き上がると持ってきた荷物の服を取り出してハンガーにかけた。
そして荷物を整理していた時、ふと見慣れない茶封筒に気づいた。
その封筒の中身が気になって、封筒の口を開け確認してみると、中からは薬と手紙が入っていた。
それは雄太郎さんからだった。
手紙には、『頭が痛くなった時に飲む薬 雄太郎』と書かれていた。
「どこまでも優しいね」
私はその茶封筒の封を閉めると、いつも持ち歩くショルダーバックの中にそれを入れた。

