「まあ、行きたくなかったと言えば嘘になるけど、私は優花と一緒に来たかったし」
「ボロボロだから?」
「ふふっ。そう、ボロボロだから」
「斉藤君のどこが好きなの?」
「……まあ、月並みだけど優しいところ?」
「はてなマークついてるけど?」
「正直よく分かってないかも。そういうことっていうよりも、近くにいると胸がきゅうってするっていうか……どこっていうよりも、斉藤君が……好きなんだと思う」
菜子は、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして最後の語尾をごにょごにょと濁らせながら、誤魔化すようにパックの中に入った野菜ジュースをストローできゅうっと吸い込んだ。
「斉藤君の格好悪いところ見ちゃっても?」
「そうだね。例えば意外と運動神経ないところ見ちゃっても、むしろ微笑ましいっていうか」
「……そういうもんなんだよね」
「だね。優花もその……雄太郎さんのこと……」
「分からない。ずっとお兄ちゃんだと思ってたから……」
そう自分の言葉で、雄太郎さんの存在を確定しようとしたけれど、私は事実『お兄ちゃんじゃない』と知る前から雄太郎さんのことが気になっていた。
「一紀はいつから優花の気持ちに気づいてたんだろうね」
「ああ……たぶん私が美由紀さんに焼きもち焼いてるのに気づいたからだと思う」
「そうなんだ。報われないなあ、一紀も」
菜子はベッドにゴロンと寝転がって、ふうっと息を吐くと目を閉じた。

