「一紀の……お姉さん?」
菜子は、聞いてもいいものかためらっていたけれど、私の手をぎゅっと握りながら一紀に聞き返した。
「なんでお前のお姉さんが?」
「俺の姉ちゃんは、優花の心理カウンセラーをしていて記憶喪失のことも知っていたし、昔の優花の名前のことも知っていた。だから、そのことを知っている可能性は高いと思う」
自分に言い聞かせるように小さく頷きながら話す一紀の表情は、とても辛そうで、こんなことに巻き込んでしまったことを後悔した。
『記憶喪失になってしまった原因を知りたい』
『雄太郎さんと私が過去にどういう関係だったのか、知りたい』
それだけが知りたいだけだったのに、こんなことになってしまうなんて……だから美由紀さんは私に忠告したんだ。
やめておけばよかった。このままだとみんな傷ついてしまう。
「一紀……ごめん、もう……もうやめよう。このままだと私だけじゃなくて一紀達まで嫌な思いしちゃう」
「今さら……もうやめるなんて出来ねえだろ?」
「でも、別に私が何も知らないってことにすれば、これ以上こんな嫌な思いすることないじゃん。だって嫌じゃない?美由紀さんのこと悪者にすることになるんだよ?」
「じゃあこのまま雄太郎さんのことも姉ちゃんのことも信じられないままずっと過ごしていくのか?」
「それは……」
「俺、別に姉ちゃんを悪者にしたいなんて思ってないよ。どっかで『これは間違いなんじゃないか』って思ってるから……だからちゃんと知りたいって思うんだ。もうこの話は、優花だけの話じゃない」
一紀は、きっぱりと私に告げた。

