『忘れたがってた。そのくらい辛い過去』
 


雄太郎さんがそう言って言うのを拒んでいた原因は、あの人のことだったのだろうか……冷たく冷え込むような視線を私に向けたあの人。
 


「彩智って、おばさんとうまくいってなかったの?」
 


「それが分かればここまで来てない……」
 


拓の質問に、一紀が静かに答えた。
 


「……記憶を消されたってどういうこと?研究の材料として買われたってさ……買ったのは、もしかして海に一緒にいた男の人のこと?」
 


「今のあの人の話だと、そうなる」
 


「それってどうなの?人を買うってさ……それに人の記憶を消すことってあり得ることなの?」
 


「分からないけど、雄太郎さんは、薬を開発している人だからあり得ないことはないかも」
 


「それってやばいんじゃないの!?」
 


「分かんねえよ!俺に言われても!」
 


何度も何度もぶつかってくる拓の質問に、一紀は我慢できなくなったように声を荒げた。
 


「ちょっと、やめなよ!」
 


菜子は、ぽろぽろと涙を零しながら二人を止めた。
 


「……ごめん……」
 


拓は、私の肩にポンと手を置くと、「とりあえず、俺んち近くだし、そこで話聞かせて」と私の顔を覗き込みながら小さな声で呟いた。