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荷物をコインロッカーに預けた私たちは、拓と一緒に私の家へと向かった。
 
今住んでいる町とは違い、私が生まれ育ったと言われているこの町は、緑に囲まれた町だった。

私たちが到着した駅前は、私たちが住んでいるところと似たような雰囲気があったけれど、そこを抜けるとまったく色合いが異なった。

大きな木がところどころにあって、木陰ができるアスファルトの道。

その道に立ち並ぶのは、木と瓦で出来た倉庫のような建物や家。
 


「ここって、ゴールデンウイークに来た町なんだよね?なんだか全然雰囲気が違う」
 


菜子が珍しそうに周りをきょろきょろしながら、呟いた。
 


「ここは町の中でも海から離れているところだからな。お前らがゴールデンウイークに来ていた海は、ここから一駅分くらい先。この辺りは、もともと城下町だったっていうのもあって、昔の景観大事にしてるんだよ」
 


拓が、私たちの先頭を歩きながら答えてくれた。
 


「俺と彩智が住んでるのは、ここから1キロくらい歩いたところ」
 


「あの、拓……私のお母さんは今日いるの?」
 


「いるよ。彩智が来ることは、お前のお母さんにも伝えてあるし」
 


「そう……」
 


拓からそのことを聞いた途端、突然足が重くなったように感じた。
 


『あなたは、研究の材料として買われた』
 


この言葉の意味をはっきりと知ることができるかと思うと、気が気じゃなかった。

その時、菜子が私の手をぎゅっと握った。
 

それにはっとして菜子を見ると、菜子は私と目を合わせることなく前を向いて歩いていた。

私は、涙が出そうになるのを堪えるためにきゅっと唇をかみしめて、菜子の手をぎゅっと握った。