高速バスに乗って約1時間。

目的の場所にあっという間について、こんなにも近い場所だったのだと驚いた。

バスから降りると拓が、待ってましたと言わんばかりにバス停のベンチからすごい勢いで立ち上がった。
 


「彩智!」
 


迷うことなく私に駆け寄って、にっこりと微笑む拓。
 


「ごめん……私、彩智って言われても彩智の時だった記憶がなくて……あなたのこと思い出せないの。こんなに色々してもらってるのに申し訳ないって、そう思ってる」
 


「そっか……そうだった、よな」
 


拓はそう言って、自分の手を履いていたハーフパンツにごしごしこすると、私にすっと手を差し伸べた。
 


「改めて、俺は五十嵐拓。彩智とは小学校の頃からずっと同じクラスで幼なじみ。中3の卒業式の時に告白したけど、フラれた」
 


「え!?」
 


「うけるっ!その情報って必要!?」
 


菜子がダムが決壊したみたいに大うけして笑いだしたので、拓は顔を赤くして、「うっせー!こういう情報で記憶が戻るかもしれないだろ!だから俺はインパクトありそうな思い出をこうして話してるんだよ」と、必死で弁解していた。
 


「そうなんだね……よろしく」
 


そう言って拓の手を握ったのは一紀だった。
 


「なんでお前が俺の手を握ってるわけ?」
 


「優花のこと好きだったんだろ?それなら簡単に握らせるわけないし」
 


「は!?まさか、お前も?」
 


「そうそう、仲間仲間。……とりあえずホテルのチェックインまで時間があるから、荷物をいったんどこかに預けたいんだけど、コインロッカーある?」
 


一紀は、拓を軽くあしらいながらコインロッカーに案内するように無理やり拓を誘導した。