入学式から1ヶ月が経った。
私は南川律(みなみせんりつ)高等学校1年A組の藍澤 ミアユ(あいざわ みあゆ)。母が外国人の為名前がカタカナなのだ。だが、父は漢字で書けるようにした。私がからかわれないように。漢字で書けば、藍澤 美愛優。画数が多すぎて面倒だ。だが、両親が考えてくれた名だからこそそんな事は言えない。

 A組には小学生の頃からの大親友の神谷 雪咲(かみや ゆら)がいる。学力的に私も雪咲もこんな学校に入れるとは思っていなかった私達は嬉しかった。

 こんな学校って言った理由は、トップクラスの高校で、私が通っていた学校から受かる人なんて数える程しかいないから。
そして、中学校からも家からも距離が遠いからだ。

 私のいた中学校から来た人は、1年生だと雪咲と、逞翔(たくと)で、先輩は3年生の西島 鈴音先輩と、同じく3年生の藍澤 ソウラ(あいざわ そうら)(漢字にすると蒼良)だけだ。ソウラは私の兄だ。兄妹で南律(なんりつ(略称))に入ったのだ。




 私はいつの間にか、そんな事を考えながら数学の授業を受けていた。
数学の授業はいつもボーッとしつつ窓の外を見つめている。面白くはないけど、数学の授業を受けるよりはまだマシだ。
窓の外にはグラウンドが見える。いつもと違って人影が無い。珍しく授業をしていない。
いつも数学のある時間はグラウンドが使われている。が、今日は違う。そのせいかグラウンドがさみしいと言いたげに思えた。

トントン

私の肩を後ろの席の人、雪咲が叩く。
「黒板の問題…わからないんだけど……」
「あーあれ?簡単でしょ……」
「お願い教えて?」
「仕方ないな。答えは教えるからいつも通り公式とかは自分で考えてね。一つ目の答えは……」

ピンポンパンポーン

校内放送が急に掛かった。

「誰だ授業中に……」
先生は不機嫌そうな声で呟いた。

ザーザザッ

ノイズが掛かる。

「ザーザッ…グラウ……ザッ……見…」

ノイズの中に声が混ざる。聞こえにくいがグラウンドを見ろと言っていることは理解出来た。
雪咲が肩を叩く。
「ミアユ…不気味……だね。私怖いよ」
「雪咲は怖がりだったね。…流石に私も不気味だよ」
「そ、そういいながら…平然と…話せてる…よ?」
「う、うん」
「智春ちゃん!?」
クラスの女子1人が声を上げる。それに続いて廊下側の生徒は立ち上がり窓へと寄る。私もそれと同時に窓の外を見つめた。
確かにD組の佐々宮 智春(ささみや ちはる)だ。グラウンドの中心に血を流して横たわっている。
「さっきまで、誰もグラウンドには居なかったのに……」

「ザーザッ……ゲー…の始…ザッザー……」
ノイズがかかり過ぎてもわかる言葉。
『ゲームの始まり』
これは何を意味するのか…。
クラスメイト達は騒ぎだした。
「誰だこんな悪戯……」
先生は怒りながら言う。それに対して学級委員長の菊谷 千桜里(きくたに ちおり)は、
「悪戯ならなぜ、グラウンドに佐々宮さんが血を流して倒れているのですか?悪戯にしても度が過ぎていると思います。それに、この放送はノイズがかかっていて聞こえにくい。ノイズを何とかするならマニュアルを見るはず。そして、授業中に放送をかけるのは非常事態のみです。そこまでの低脳な先生がいると思いますか?」
菊谷さんはいつも正論を言う。先生もやられたようで「職員室に行ってくる」と告げ教室から出て行った。そして、菊谷さんが
「今は変に動いてもどうしようもありません。他のクラスも教室待機だと思うので、私達も教室から出ないようにしておきましょう」
と言うと男子は「しゃーないな」と言わんばかりの顔をしつつ自分の席に戻りだした。女子は仲いい者同士で固まって話し出していた。実を言えば私達もそう。
「雪咲ちゃん怖かったね……」
「うん。とっても怖かった」
「ミアユはいつも通りって顔してるけど実は怖かったり??」
と、私を茶化そうとしてきているのは別の中学校であったが仲良くなった原野 彩希奈(はらの あきな)だ。いつも明るくポジティブ思考の彩希奈がいるお陰で私達は明るかった。でも、中学校時代はそれがいじめの原因になっていたらしい。
「流石に少しは怖かったよ。佐々宮さんがグラウンドの中央で血を流して死んでるんだから……」
「し…しし……死んでるっ!?」
「普通に考えて言えばね。あんなに大量に血が流れていて生きていましたなんて聞かないよ。それに、これだけの時間放置されてりゃなおさらさ」
「あの放送からかれこれ30分は経つんだ……」
「智春どうなるんだろう……」
「一応病院には行くでしょ…それに殺人?自殺?それは知らないけど警察も動くだろうし……」
「もしかしてテレビ出演っ!?」
「彩希奈…こんな時に何を言うかと思えば……」
「流石彩希奈ちゃん…ポジティブだね」
「これが私の長所だからねっ!」
自信を持って彩希奈は答える。だが、私と雪咲は苦笑いでしか笑えなかった。
「少し良いかしら?」
「え…何?」
と、声をかけてきたのは菊谷さんだった。
「藍澤さん今日も外…グラウンドを眺めていたわよね?」
「ま、まあ……」
「変わった事は無かったかしら?一応佐々宮さんがどうしてああなったかは推測くらいしたいんだけど」
「変わった事ね……。あ、そういえば今日は珍しく授業を行ってなくてグラウンドには人影は無かったよ…だから私は違和感を感じてたんだよねぇ……」
「そう…授業を……。雪咲さんや原野さんは何か無かったかしら?今日じゃなくてもいいんだけど……」
「ごめんなさい。私は全くないよ」
「そう。原野さんはどうかしら?」
「んーそうだなぁ。最近智春と仲良くしていた咲恵と喧嘩してたよ?内容は知らないけどさ」
「喧嘩…」
と呟き、顎に手を添える。
「……ありがとうね。じゃあ私は男子にも聞いてくるからこれで」
と言って、男子の元へと行った。
「智春と咲恵って雪咲とミアユみたいだよね」
「え?」
「だってさ、友達付き合い長いじゃん?」
「そうなの?」
「あ、そうか中学校違ったから知らないのか……。私は智春達と同じ小学校・中学校なんだよね。んで、ずっと見てきたけど友達付き合いがめっちゃ長いんだよね。聞いた所によれば、智春と咲恵のお母さん同士が仲がよくって、幼稚園の頃からの付き合いらしいよ。……まあ、それだけ長けりゃ喧嘩もあるよねぇ」
「確かにね。でも、私と雪咲は喧嘩した事無いよね?」
「あー、確かにないね」
「お2人は仲がとーっても良くて何よりですなぁ」
「…でも、彩希奈ちゃんが来てからは私達の仲はより一層良くなって彩希奈ちゃんっていう友達も出来た。ありがとうね。彩希奈ちゃん」
「この私が褒められるとは……お主やりおるなぁ」
「えへへ」

ピンポンパンポーン
「全校生徒の皆さんに連絡致します。体育館へ1度お集まり下さい」
ピンポンパンポーン

「体育館だって…」
「解決でもしたのかな?」
「安否の確認もあると思うし、雪咲の言ってた奴もあるかもね」
菊谷さんが手を叩いた。そして、
「男女各一列になって体育館へ移動しましょう」
と、良い先導をし始めた。それと同時に男子の中では菊谷さんの悪口の言い合いが始まっていた。

ここは1階だから体育館までの道のりは少ない。これが救いだ。

そして、先導する菊谷さんの後ろを歩き続けると体育館の前に来た。そして、二年生の巫子先生に今日のいる人数を伝えている。それを伝え終わると体育館へと入って行った。私はその後ろについて行き集会体形になり体育座りをした。
 しばらくして全校生徒が集まった事を確認して校長──霧霜先生が口を開けた。