「まったく、だから言ったでしょう、危険だって」
「それ俺が綾に言ったセリフだよ……」
今頭蓋さんと座っているのは駅のホームに設置されている冷たいベンチ。もちろん一人分距離を開けた。
いつもならここで「もっとくっつこうよ」と簡単に距離を縮めてくる彼だけど、どうも先程の出来事が頭から離れないらしく一人でうなだれている。
めんどうくさい人、と小さく呟けば勢いよく頭蓋さんの頭が持ちあがった。もう彼泣きそうだ。
「だって誰が予想する?男が痴漢に襲われるって!」
そう、最近出没している痴漢魔は女性対象ではなく男性対象の男だったのだ。
私はそれを知っていたから、彼のついてくるという申し出も断っていたんだけど。
あとから思いかえせば、なるほど私の口から痴漢が男狙いだとは発していなかった。
ちなみに電車内で合図を出してくれた頭蓋さんの指が指したのは彼のお尻。もろに触られていたようで。
ショックで立ち直れない彼のかわりに痴漢男を駅員さんに引き渡したのは私だ。
「ほんと、世の中色んな趣味の人がいるんだね……身を持って知った」
「ご愁傷様です」
突然彼が震えたのもそれが原因らしい。
その後なんとか元気付けて頭蓋さんを電車に放り込んだ。もともと彼はここで降りる人じゃないから、早く職場に行ってもらわないと。
私も大学に急ぐ時間だったので、後ろの電車で恐怖に怯える骨は振り返らず、足早に駅を出た。
