よく「一度デートしてくれたら諦めます」という文句は聞くが、「カノジョさんとデートしている所を見て、納得したら諦めます」なんていうのは初めて聞いた。
さすがは芸術方面の人間というか、普通は思いつかないことを考えるものだ。
「あの、それで。雰囲気は良かったですけど、頭蓋さんってずっとあんな感じなんですか?無理してない?」
「……え」
「職場にいる時と違う気がするんです。演じてるとか、あなたに無理して合わせてるとか」
無理させてる。そうなんだろうか。
でも家にいる時や麻野さんと話す時も変わらないし、素がどっちかなんて私にはわからない。
ただもし本当に、わざわざ私に合わせてくれてるんだったら。
「そんなの余計なお世話ですよ。もしそうなら頭蓋さんにも言います。ずっと気を遣い合う関係なんて嫌だし」
面倒くさい。たしかに多少相手を思いやるのは大切だけど、気を遣うのとはまた別の問題だ。
「彼を待たせてるので、失礼します」
俯いている竹永さんを通り越し、すたすたと化粧室を出た。
言い過ぎただろうか。こんなんだから友達がいないんだな私。いらないけど。
