いつの間にかコーヒーは互いに底をついていた。
午後からだったのでもう夕方に足を突っ込んだぐらいの時間で、そろそろ帰ることにした。
どうせ帰る場所は一緒だし、歩きだから喋る時間はあるのだ。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
そう言って席を外し、会計の前を通り過ぎて化粧室に向かう。
綺麗な店内と同じく化粧室も清潔感あふれていた。明るいクリーム色って落ち着くよなぁ。
用を足して洗面台で手を洗っていると、隣で女性が一人、メイクを直し始めた。
と言ってもナチュラルメイクのようで、すぐにファンデーションケースを閉める。
ふんわりとした雰囲気でロングスカートの、いかにも本を読んでそうな……と、女性が洗面台に置いていた大きな眼鏡をかけた。
ちょっと待て、この人どこかで見た気がする。
「ーー頭蓋さんのカノジョさんですよね?」
髪を携帯用の櫛で梳きながら、隣の彼女が告げた。カノジョ……違うけど、今日はそうか。
そしてその口から『頭蓋さん』が出るってことは。
「……あなた、昼に頭蓋さんと歩いてた……」
「み、見てたんですか。そっか……。わたし、頭蓋さんと同じ職場で働いてる竹永です」
彼女が手を止めて私に向きあう。
