そういえば頭蓋さんが美術関係の仕事をしていることを、すっかり忘れていた。
あ、そうだ。
「そういえば、今日は仕事じゃなかったんですか?午前中」
「え、なんで?」
「女の人と歩いてたから」
頭蓋さんの笑みが消えた。眉が下がった困り顔だけが残る。
彼が立ち止まったので私も足を止めて横を見ると、がしっと両肩に手を置かれた。
「う、浮気じゃないよ!」
「そもそも付き合ってません」
「あーうーでも仕事ではなかったよ……」
白状した。脆い。
「……じゃあ、今日だけ付き合おう!」
そして妙なことを言い出した。キモい。
「は?」
「デートのふり!今から俺たちは映画館デート。俺が彼氏で綾は彼女。逆がいい?」
「いや、そのままで……あ」
肯定してしまった。頭蓋さんはすっかりもとに戻っていてニヤリと口の端をあげる。
そしてそのまま左手を肩から腕に添わせてーー私の右手と手をつなぐ。
「恋人つなぎね」
指が絡まって。こんなこと久しぶりだ。
頬が熱い。映画館に着くまでは俯き気味でしかいられなかった。
だからわからなかったのだ、頭蓋さんが時々別の誰かを見ていたことが。
