呆れたという意が伝わるように、深くため息。
「バイトすることにしたんです。新井さんはここによくいらっしゃるお客様で、今からお帰りになるところですけど」
「バイトって、……まあいいや。新井さん、奇遇ですね。今度いくらでも話は聞くので今日のところは帰っていただけませんか」
「いや、それはあまりにも上司に対して酷いと思わないか……帰るつもりだし構わないが」
新井さんの言葉に納得がいく。上司と部下の関係なのだ。つまり職場が一緒。
「じゃあまた明日会いましょう」
「……頭蓋さん強引すぎるんじゃ、」
「新井さんだから大丈夫」
頭蓋さん生意気すぎる。私が上司なら即刻首締めにかかると思う。
でも新井さんは慣れている態度で、では、と会釈してバーから出て行った。
……直後、目の前の男が歯を見せて笑う。いや、目が笑っていない。睨み返そう。
「それで綾、なんでバイト?」
その質問、くると思いました。
「諸事情です」
「教えてよ」
「プライバシーに関わります」
「麻野さんは?」
「寝てます」
……おかしい。押し問答の間に頭蓋さんが移動してくる。いや、カウンターに入ってくるのは客としてどうかと。
