回想し終えたところで、カランと控えめにベルが鳴り、バーの扉が開いた。
「あ、麻野さーー」
彼を待って早10分。とりあえず話だけでもと思った……けれど。
「手をあげろ、さもなくばこの大根でお前を打つ!」
「……は?」
扉から入ってきたのは金髪のポニーテールに本人曰く元から白いという肌、そして片手には大根、もう一方にはビニール袋を持った変人……いやオカマだった。
……いや、なに。オカマ口調飛んでますから。
「……アラ?やっだぁ、桐島ちゃんじゃない。電気点いてたから空き巣かと思ったわ」
「いや良い大人がどんな思考持ってんですか。それに大根って」
もっと、銃で撃つとか言ったらまだ格好いいのに。法律違反だけど。
心底安堵した様子の麻野さんは、近所のスーパーの袋をどさりとカウンターに置いた。
「だって桐島ちゃん、このバーにあまり来ないデショ?」
「あなたがいるからですけど」
もともと苦手なんだ。こうやって馬鹿やってるくせに要所要所で鋭いことに気づく奴。
まあ言わばおじさんだし人生の経験は豊富だろうから、細かいところに配る目があるんだろうけど。
