自分の部屋に入るとまず、スーパーの袋から野菜類を取り出して冷蔵庫に入れた。肉もきちんと保存する。
「……さて、ご飯は」
今日は頭蓋さんが珍しく夕飯を作っているらしいから、今夜分のご飯はいらないはずだ。それなら明日の朝からでも大丈夫だろう。
自分の部屋の戸締りをして、すぐ隣のドアの前に立つ。
「頭蓋さんー」
ギュッコンと鳴るインターフォンをそろそろ取り替えてほしいと思いながら名前を呼んだ。
トタトタと足音がして、古い緑のドアが開けられる。
「こんばんは、綾」
「こんばんは」
微笑んで中へと促した頭蓋さんに軽くお辞儀して部屋に入る。頭蓋さんの足取りは軽く、鼻歌まで聞こえそうだった。
ふと、というより部屋に入った瞬間から甘い野菜の匂いが漂ってくる。
「カレー食べたいんだ。野菜を炒めるとこまではやっておいた」
上機嫌な理由はこれか、と。彼の好物は肉じゃがとカレー。なんとも日本人らしい舌を持っているのだ。
「ありがとうございます。……珍しく家事手伝うんですね」
もともと私が彼の分までご飯を作るきっかけとなったのが、食費は出すから作ってくれ、なんてお願いだった。
なんだか雇われてるみたいだったけど、人の分も作ると思えば豪華なものも食べれるし、と話に乗っている。
だから頭蓋さんが手伝うなんて滅多にない。
