頭蓋さんは普段、7時ぐらいに部屋に帰ってくる。
直接彼の部屋へ行かなくても、一回私の部屋に荷物を置いてからいけば弁当の材料についてはバレないだろう。
しかし問題は麻野さんだ。
頭蓋さんと麻野さんは仲が良い。今朝出勤する前に、私が弁当を作らなかったことを話している可能性がある。
そうなると、今の時間にバーにいるのは当たり前の彼から何かしらからかわれることは想像に難くない。
「あら、桐島ちゃんじゃなァい。その袋は、買い物してきたのかしら?」
カランと音のなるドアを開け、バーに足を踏み入れる。このドアはいちいち音がなるから必ず麻野さんに気づかれてしまう。
案の定麻野さんは話しかけてきた。
「ああ、ちょっと夕飯の材料で」
「……でも頭蓋ちゃん、今日は綾にカレー作って欲しいからって色々買って帰ってきたワヨ」
……何してくれてんだ骨。
「……間違えました朝食の材料で」
「お肉とか入ってるケド、朝から重量ねぇ」
カウンターから身を乗り出して、私がもつスーパーの袋を覗き込む麻野さん。痛いところを突いてくる彼は苦手だ。
私も私で、じゃあ明日に回します、などと言えば良かったのに誤魔化しスキルが足りなかった。
「明日のお昼ですっ」
もう自棄になってそう告げると、彼の双瞳がからかうようにきらりと光った。
そしてきょろきょろと辺りを確認し、こっそりと耳打ちのような感じで話しかけてくる。
「…せっかく今日カレーなんだカラ、お弁当のおかず一つはカレー味にしたら?案外楽よ」
なぜ耳打ちなのかは彼の不思議行動として置いといて、とりあえず今、珍しく彼に尊敬の眼差しを送った。
