もう講義は終わっていたらしく、教室内は閑散としていた。
「何ですか?」
この男はよく、廊下ですれ違う人たちの話題にのぼっている。なんでもエスカレーターの矢野目高校で生徒会長だったらしい。
「この大学で一番暇そうな奴だし声かけようかと」
「は?」
至極真剣にそんなことを言った彼の言葉を遮り、冷たい視線を送る。
するとクスクス笑い出した。なんなんだ、この男。
「いや、嘘。講義終わったのに1人だけ寝てるから、起こしてあげようと」
「意味がわからない、大きなお世話」
「大丈夫、金は取らないし」
「うざい」
大学に通い始めて2ヶ月。時々この男みたいな奴に絡まれるけど、こうやって睨みきかせておけば数分でどこかへ行く。
だからいつも通りに接しているが、この男、過去の男どもとは何かが違う。
