町役場の住民課で勤務していると、いわゆる何でも屋なんだと感じる。建物に入った正面に住民課があるので、まず始めに声を掛けられる。

そんな感じだから、まだ来て間もない俺でも、かなりの人の名前と顔が一致してきた。

27歳、独身、公務員、容姿もそこそこ良しとなれば縁談らしき物も舞い込み始める。

中には母娘そろって真剣にアプローチしてきたり………困る。

「篠原君、うちの美帆が映画見たいって言ってたの。今度のお休みどうかしら?」

いや、映画ってあなた、車で2時間以上走らないと見れないですから。俺は貴女の娘とデートする気はありませんから。
結婚する気も無いし、まして婿養子なんて論外ですって!!

思った事をズケズケ言えればスッキリするのだろうけど、職場の受付カウンターだし、住民課のお客様だし………。

用事があるとかなんとか言って帰っていただく。

「篠原君は彼女作る気あるの?独身主義って訳でもないのでしょ?あ、まさか、そっちの人?」

近くの席に座っていた山本君が声をかけてくる。

そっちの人って、なんだ?と思いながら答える。

「俺、女の子好きですよ。」

山本君は確か、俺より3歳程上のはずだった。熊みたいに大柄だが愛嬌のある顔をしている。

「じゃ、やっぱり婿養子が困るのか。長男?」

「兄貴がいるけど、名字が変わるのは抵抗ありますね、やっぱり。」

「町コン参加募集中だよ。出てみなよ。
新しい出会いがあるぞ~!うちの嫁さんも町コンで知り合ったんだよ。初回の町コンでさぁ。俺主催者側だったのに、参加者差し置いて意気投合しちゃってヒンシュク買って
参ったね、あの時は!」
ハハハ、と苦笑しながら話す。

妻帯者だったのかと初めて知った。
町コンに興味はなかったが、秋川さんがいるかもと思う。

「締め切り近くまで考えてみます。」

「ああ、そうだね。さ、仕事しないと今日も残業になっちまう。頑張るか!」