誰かにご飯を作る事は、とても楽しい事だった。

何を作っても美味しいと言ってくれるので、お世辞だとしても嬉しかった。

篠原さんの以前の食生活は外食か、出来合いの惣菜弁当がほとんどだったようだ。
なので、独り分も二人分も作る手間は余り変わらないと、自分に言い訳しつつ、作っていた。

好きなのだろうか?
嫌いではない。

いつまで、ずるずる行くか、辞め時が分からなくなってるのもあった。

交際してもいないのに部屋に行き来する。

それは、自分的にはあり得ない事だった。



そんなこんなのある日、隣街のレストランに誘われた。

今までのお礼のつもりらしい。

これが潮時かも知れない。
もう、部屋に行き来するのは辞めよう。

ちょっと余所行きのワンピースを着て、篠原さんの車で出掛けた。

彼もスーツ姿で、ビシッと決めていて格好良い。

昨夜会った時には仕事を終らすのに必死だったらしく、かなりヨレヨレだったのでちょっと笑える。

レストランでコース料理をご馳走になる。

私の料理は悪く言えば田舎料理、良く言えば家庭的なので、こういうコース料理は洗練されていて、とても新鮮に感じられる。

「今日はありがとうございます。とても美味しかったです。」

帰りの車に乗り込んだ時、お礼をのべた。

車は発進せず、彼はじっと見つめてきた。

空気が濃密になった気がして、息苦しくなる。

これは、もしかして………。

「秋川さん、いえ、ひとみさん。
俺はあなたに惚れてます。
結婚を前提にお付き合いしてくれませんか。」

彼の熱い視線が私に注がれる。

私はこの言葉を待っていたのかも知れない。

「私で良いんですか?」

「あなたしか、いません。
俺は初めてあなたに出逢った時から、あなたに首ったけなんですから。

どうやって知り合いになろうか、必死で考えていました。

ひとみさんの事を知れば知るほどに、好きになりました。

看病してくれて、毎日顔を見る事が出来、とても幸せでした。

願わくば、この先もずっと、いつまでも隣にいて欲しいのです。

家族になりたいんです。

ダメですか?」

「有り難うございます。
とても嬉しいです。

ふつつかものですが、宜しくお願いします。」

「!!ひとみさん!!!こ、こちらこそ、宜しくお願いします!」

彼に、思わず、という風に抱き付かれた。

狭い車の中なので、それほど密着する訳でも無く、体勢もきつくて、色々笑えてきてしまう。

「篠原さん………慎さん、場所変えませんか?」

苦笑まじりにそう、提案すると、彼は慌てて車を発進させる。

「家に帰っていいですか?
ああ、もう、遠いな!
こんな、隣街になんて来るんじゃなかった!」

「家でも良いですけど、安全運転でお願いしますね。」





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篠原慎は、秋川ひとみとの未来に向けて走り出した。

安全運転第一で。
尻に敷かれるかもと思いながら、それも惚れた弱味だ。

とりあえず、今は家に帰って二人の幸せを堪能しよう。

これから先、どんな彼女の顔が見れるのか楽しみだ。

何せ俺の彼女は何でもこなす、マルチな人だから!!