馴染みの無い町に引っ越ししてきて3ヶ月になる。来た頃はやっと春を感じ始めたばかりだったのに、今ではいつの間にやら半袖の季節だ。

職場と家との往復で疲労がたまる。
食事はコンビニか数軒しかない食堂だ。
やっと職場の環境に慣れつつあるが、娯楽も癒しもない生活に嫌気がさしつつあった。

そんな時、初めて入ったスーパーマーケットで彼女の声が胸に響いてきた。

「有り難うございます、又、お越し下さいませ」

深みのあるやわらかな声だった。思わず顔を見つめ、次いで名札を見つめてしまう。美人とまではいかないが、好ましい顔だった。

『秋川』名札にはそう書いてあった。
身長は179センチある俺の目線より下の方だったから160センチ無いだろう。
150センチそこそこかも知れない。

年齢は………?小柄な印象が強いので学生にも思えてしまう。

俺は今年29歳になるから、18歳位だとギャップが大きそうだ。
又会いたくて、暇を見つけては店に通うようにしていた。

が、あれから2週間経つが全然見かけない。時間帯が悪いのかと思い、朝昼夕と通っても店にはいなかった。

………俺は寂しさの余り、脳内彼女を作りあげていたのだろうか?
あの好ましい声をした秋川さんは、実は今眼前でレジ会計をしてくれているこのオバサンだったのだろうか?

虚しい気持ちを抱えながら買った缶コーヒーを持ち駐車場に来た。
今日も残業だな、と溜め息を吐きつつ車に乗る。
職場に自販機があるのだから、もう、無理してここまで買い物に来るのは止めようかなと思った。

と、その時、店の横の方で竹ぼうきを持って掃除している人が目に入った。

「!!」
紛れもなくあの彼女、秋川さんだった。