「直人。」
 私は立ち上がってベランダにいる彼に声をかける。

「あ、ばか。寝てなきゃ。」
 振り返ってくる彼。

「ぎゅーして。」 
 私は手を広げる。

「…何?どしたの?
熱、本気である?」
 私のおでこに手を当てて熱を確認する。

「ばか。」
 私は笑って彼に飛びつく。

「あ、こらスリッパ履いてないのに、汚いよ、足。」
 構わず私は彼を抱きしめる。

「あのね、お話したいことあるの。」

「……何?いい話?悪い話?」

「うーん、悪い話かな?」

「こわいなあ……。何だろう。」
 彼は私の頭をなでた。

「ちょっと聞きたくて。
あのね…直人後輩さんいるでしょう?」

「玄野のこと?どうかした?」

「私、ずっと男の人って思ってたの。
でも昨日たまたま携帯の画面見ちゃって、女の人って知って…。」

「……ハハハ!」
 噴出したように彼は笑った。体を離してかがむと、私の顔を見入る。 

「何、やきもちやいたの?」

「…うん。」
 こくんと私はうなずく。

「かわいいなあ。」
 意地悪な表情で笑う彼。

「ちょっと笑い事じゃないんだけど!」
 たたこうと腕をふりあげたのだけど、彼に簡単に掴まれてしまう。

「ごめん。でもかわいくてさあ。」

「もう。」
 彼は一度口元を緩めたかと思うと、ゆっくり優しく言葉を発した。

「女性ってちゃんと説明してなくてごめんね。不安にさせてごめん。
でも、彼女いること、ちゃんと玄野に言ってるから。」

「…うん。」

「飲み会あって、女性送ることあっても、複数で帰るようにしてるし。」

「…うん。」
 大事に大事に私の不安を取り除いてくれる。

「ほかに聞きたいことは?」

「電話―――。後輩さんと話してるのは仕事のこと……?」

「当たり前。」
 まっすぐ、まっすぐ彼はそう答えた。

「ほかは?」
 ふるふると私は首をふる。

「よし!」
 彼は私をもう一度抱きしめた。

「話してくれてありがとね、倫子。」

「…うん。」


 別れたときには勇気がなくて、話し合うことをしなかった私。でも今こうして私達いれるってことは、ちょっとずつ歩み寄れてこれてるってこと。

大丈夫、もう私達
ずっと分かりあえていけるよね―――私は彼をぎゅっと抱きしめた。