渡辺先輩は、私の4つ上で常に人気な先輩。
短髪できりっとした顔つき、すらっとしていて、容姿はもちろんのこと優しい性格で女性社員だけでなく男性社員からも好かれている。

「まあね。倫子の事そのぐらいから好きだったから。」
 パクッとからあげを口にほうりこむ。

「………ふーん。」
 私もからあげを口に運んだのだけれど、一度小皿に落としてしまった。

予想はついてた彼の言葉。
でもいざ目の前でそういわれると、こうも照れてしまう。

私は彼をちらっと見る。
ニコニコと笑ってる彼。

「照れてるの?」
 そう言わないけど、彼は私がそうだと気づいてるらしい。

「……お肉食べちゃうよ。」
 私は彼が小皿にとっていたお肉を取り上げる。

「あ、俺のだって!」

「もー私のです!」
 パクッと口に入れる。

笑いあう私達。
付き合いたてのころは恥ずかしくて、敬語だった言葉遣い。今でもたまに敬語を使うけど、今じゃからかうの時に使う、その言葉。

あの頃の私には想像できなかった今―――。

「でもさ、倫子意外にスキがあるから、今でも俺結構ひやひやしてるよ。」
 彼がお茶を飲む。

「え?なんで?
私のガード硬いの、一番知ってるの直人だと思ってるんだけど。」

「仕事以外の話、あんまり乗ってくれなかったもんね。」

「そうだっけ?」
 私もオレンジジュースを飲む。

「そうだよ!
休日何してるんですか?って聞いて、今お仕事中なのでって、見事にスルーされたの覚えてるよ。」

「え?そんなこと言った?私、ある程度は話乗るはずなんだけど……」

「言った!まあ仲良くなりたくて、めげずに頑張ったけど。」

「うん、頑張ってくれてありがとう。」
 私はクスクス笑う。

「まあそういう壁作るとこも過去の遠距離のせいだって教えてもらってからは、納得してるけど。」

「うん。」

「でも結果的に俺とこうやって付き合ってるわけだし、やっぱ何かしらスキがあるんだよ、倫子。なんか。」

「え?」
 笑う私。

「そのうち、他の人好きになったとか言われたらどうしよ。」

「それはない。」 
 いつもの冗談かと思って、私は笑ってそう答えたのだけれど。

彼は少しだけ、少しだけ笑って、

「帰ろうか。」
 そう言った。