「はあ~腹減った!」
 彼はスーツを脱ぐと、いつものところへ座った。

「今日はロールキャベツにしちゃった。」
 また火をつけて仕上げをしつつ、お腹が減っているはずの彼にすでに仕上げていた料理を机にだす。

「ありがとう。おいしそ~う!」
 彼はひょいひょいと手でつまむ。

「もう、箸あるから…!」
 おいしーいといった表情でもぐもぐしながら微笑み、箸を受け取る彼。

「倫子は食べないの?」

「んー、もうすぐできるから。」
 キッチンに戻ろうとする私。

「倫子、待って。」
 彼が私の腕をつかむ。

「今煮込んでるから。」
 私は彼の腕を離そうと手をかけるのだけど、

「はい、あーん。」
 そう言って関係ないとばかりに、お肉を差し出してくる彼。

「くつくつ鍋いってるから!」

「はい、あーん!」
 ……もう。

「あーん。」
 私は口を開ける。彼がお肉を入れた。

「…おいひい。」

「おいしいねー!」
 彼はにこにこ微笑む。彼の笑顔に照れてしまうのも、変わらない。
毎日一緒なのに、もう何十回だって見てきたのに。

「…ばか。」
 彼がハハハって笑って、私を無理やり座らせ抱きしめる。

「…まだ料理途中なんだけどなあ。」

「じゃあ離れてもいいよ?」
 腕を離す彼。

でもそう彼に素直に言われると、

「やだ。」
 って言ってしまいたくなるわけで。
彼がその後どんな表情をするか、目に見えているのに。


彼は体を離して、冗談っぽくすねた声。

「……ただいまのちゅー、今日貰ってないんだけど。」

「ばか。」
 やっぱり彼は意地悪な表情で、私をいじめたのだった。