雨が降っていた。

「星、みたかったのになあ。」
 部屋にぽつんと響く私の声。変わらずしとしとと降り続く、もう朝からずっと。彼は休日出勤中、だから私は1人。

ピンポーン
今日は帰るの、7時になりそう!
そうお昼に連絡が来てから、日はすっかり傾き夕方になった。

こうやって今日は何時に帰るよって連絡くれるのも、今や慣れたことなのだけど、でも嬉しいことには変わりなくて。

彼の生活の一部になれていることも、どんどんどんどん知らない彼の一面がなくなっていくことも。

彼の好き嫌いもそんな面の一つ―――――。

「さーてご飯作ろうかな。」
 私はキッチンに立ち、腕をまくった。
彼の好き嫌いは本当に激しい。

例えば、豆腐一つにしても、この種類はいいけどこの種類はだめ、とかそんな始末。
半同棲していたときは、彼に目をつぶってもらっていて、そんなことまで知らなかった私。

けれどずっと一緒に生活していくわけだから、彼のそんなとこも受け止めなきゃと、私は彼の好みを全部覚えた。


こうやって毎日彼のこと知っていって、

いつかは、

あなたのことあなた以上に知ってる、なんて言えるようになるのかな。


ガチャ

「ただいま~!」
 かけていた火を一旦止めて、私は玄関へ向かう。

「おかえりなさい!早かったね!」予定より2時間ほど早い帰宅だった。

「うん、無理やり帰ってきた。」
 傘をささなかったのか、少しだけ頭が濡れている。なんでささなかったのかな、少し疑問に思いながらも、

「もう濡れてる!」
 と言ってお風呂場からタオルを取って、彼の頭にかけた。

「ごめん、ごめん。」
 笑いながら彼は靴を脱ぎ、私に携帯を渡して、タオルで頭を拭きながらリビングに移動する。

「ん?さっきまで電話してたの?」

「そうそう、玄野とね。聞き忘れたことあったらしくて。
もー番号、教えるんじゃなかった。」
 ここのところ彼は、後輩とペアになってお仕事をしているらしい。晩酌時に最近、よくそのことを愚痴っている。


永遠と玄野くんという後輩のことを話して、

「もう面倒みたくない。」
 決まってそう言うのだけれど、

「まあしゃない。」
 結局話の終わりに笑ってそう言うのもお決まりで、嫌がりながらも可愛がっているみたい。

「後輩さんと仲いいね。」
 私がからかうと、彼はうんざりとした表情を見せるけど。