「今度は直人くん、ゆっくりいらっしゃいね。」
「はい、ありがとうございます。
あ、これよかったら。つまらないものなんですけど。」
直人は母に手土産を渡した。
「まあまあ、気にしないでいいのに、ありがとう。
あ、倫子ビール出してあげて。冷やしてるから。」
「うん。」
私は立ち上がって、冷蔵庫からビールを取り出しに行った。
「いやそんな、いただけないです!」
「お父さんからね、来たらビールすぐ出すようにって言われてるの。気にしないで。」
表情は見えなかったけれど、母は微笑んでいるようだった。
「すみません、ありがとうございます。いただきます。」
「それよりも直人くん、倫子どう?一緒にいて疲れない?」
「ちょっとお母さん!」
直人の前にグラスを置いて、瓶を傾けてビールを注いだ。
「だって、倫子ところどころおかしいから。ちょっと心配なのよ。」
「ハハハ!」
直人が噴き出すようにして笑う。
「あ、やっぱり直人くん思い当たるふしあるのね?もう大変でしょう?」
「ちょっと!」
「どこかに出かけたりしても、たまに車にひかれそうになっているんですよ。目が離せないです。」
笑いながら、ちらっと私を見た。
「直人、ちょっとしー!」
そういっても彼は変わらず笑い続ける。
「直人だって、たまに変なところあるんだよ!お母さん!」
「あら?そんな風には見えないけれど。」
突発的に口に出した私の言葉に、首を傾げた。
「えっとね、えっと。」
こういうとき、どうして一つも思い浮かんでこないんだろう。