「かっこいいから、大丈夫。」
彼の緊張を少しでもほぐそうとそう言ってみた。
「だめだ、緊張してて今そう言われても嬉しさが半減。」
苦笑いして、彼は大きく息をはいた。
「よし倫子。入ろう!」
彼の頭を一度撫でて、私は玄関を開けた。
ガラガラガラ―――
「ただいま~!」
「お邪魔します。」
私たちの声を聴いて、奥からバタバタと駆けてくる音がする。
「あら、倫子おかえり!直人くんもはじめまして、いらっしゃい!」
出てきたのは母だった。
肩まで伸びた黒い髪を後ろに一つに縛っている。黄緑色のエプロンをしているところを見ると、私たちが来るのを気遣い、掃除をさっきまでしてくれていたのだろうか。
「あがってあがって~!」
「お邪魔します。」
私は直人に微笑んで、リビングに誘導した。
「お父さんとお姉ちゃんは?」
私は彼にここに座ってと合図しながら、母に尋ねる。
「夜ごはんの買い物。健くんは今日夜遅くまでお仕事だって。
直人くんに会えないって残念がってたわよ。」
健くんとはお姉ちゃんの旦那さんのこと、もうすっかりこの家になじんでいるらしい。
「んー、今日は泊まらないからね…。」
いきなり泊まりは彼の心臓が爆発しそうだと思って、私は今日中に帰ると伝えていた。