二人の間に、スプーンがお皿をする音だけが続く。二人とも食いしん坊だから、おしゃべりよりご飯優先。だから、こうして食べているときは黙りがち。
でもたまに目をあわせて、おいしいねってアイコンタクト。それだけでおいしさが増す。
「直人の前のお家、売れてて残念だったね。
空いてたら、直人のところの方が広かったのに。」
お茶を飲んで、のどを潤す。
「あそこ人気だって借りるとき言ってたからな、不動産屋さん。
でも別に俺はどこでもいいからさ、倫子と入れればどこでも。」
「はいはい。」
私はまたお茶を飲む。
ばかって言っても割に合わないぐらい、照れくさい、甘い言葉に酔ってしまいそうだった。
「倫子、照れてるの?」
彼が私の顔をのぞいた。
「うるさい!ほら早く荷物片付けるよ!」
自分の分と彼の分のお皿をキッチンに運ぶ。
「ほんと照れ屋だな。」
笑いながら彼は、コップを持ってきた。
洗い物をはじめた私。落ちそうになった袖を、彼がめくってくれる。
「…またこっちに勤務になってよかった。」
「うん。」
彼はこちらで勤務することを任されたみたいで、何かある限り、移動は当分もうないみたい。
「……もし部屋狭かったら、新しく探そうね。」
お皿をすすぐ。
「ばか。さっき言ったこと本気だから、気にすんな。」
私の頭を右手の中指でこつん。
「ごめん。」
「…もういつでも会えるんだよな。」
彼はぎゅっと私を後ろから抱きしめる。
「…うん。」
注ぎ終わった私は、水を止めて腰にまわされた彼の腕にそっと触れた。
食器を洗い終わったというのに、私たちはしばらくそのままでいた。彼も私の肩に顔をうずめたまま、私も彼の腕に触れたまま。
会えなくて寂しくて辛い毎日――――。
もしかすると私たちは、この日の為に送っていたのかもしれない。にくいほどに幸せをかみしめるこの瞬間のために。
人知れず私はそう思った。