「…直人今、何してるの?家?」

「いや、まだ外。帰ってる途中。暗いなぁ~…。」
 そういわれてみると、確かに電話の向こうで、外の音がする。

車の音、砂利の音、風の音―――私が通勤するいつもの道と似ている音の数々、どこの道も変わらないのかもしれない。

「気を付けてよ、男の子だって何あるかわかんないよ?」

「…もう子っていう歳じゃないけどね~。」
 苦笑する彼。

「それもそうだね。」
 吹き出す私。

「こら、それは失礼だぞ!」
 電話でも遠くに感じない。そばで話しているみたい。

きっと今、直人あのいつもの顔で笑ってくれてるんだろうな……。

「あ、倫子、それで話したい事あって。」

「何?老化予防の秘訣とか?」
 くすくす笑う私。

「ばか。えっと――――あ、ごめん、倫子。
キャッチ入った…。

ちょっと一旦切っていい?」

「いいよ、いいよ!そっち出て!
私もそろそろお風呂わくからその間入るし。」

ピピピピ―
「お風呂が沸きました。」

「あ、ちょうど沸いた!」
 寝室に入り、部屋着を手に取る。

「いや、すぐ電話終わらせるから、ちょっと待ってて。ごめん!」

「ん?そういうことなら…。じゃあまた後で。」

「じゃまた後。」

ブーブー切れた電話。
今まで彼は私より先に電話を切ったことがない。
よほどの電話だったのかな。

私はお風呂場に部屋着を置くと、湯に蓋をしてテレビでまた暇をつぶす。
少し時間がたって、また鳴る携帯。

「もしもし、倫子?ごめん。」

「うん、それは別に構わないんだけど。それでどうしたの?」
 テレビの音量を落とす。

「えっとー…」