ばかって言う君が好き。


「ひどいよ、お前は……。
俺に好きだとも言わせず、別れを一方的に告げて。

いざ諦めようと思えば、そうやって俺を捕らえて…。」

「あっ。」
 彼が私の手をはぐ。
涙でぐしょぐしょの顔。
見つめられて真っ赤になった顔。

「見ないで、みないで。」
 私は顔をそむける。

こんな顔、はずかしくて。

手でもう一度顔を隠そうとするも、腕は彼につかまれ、壁に追いやられてしまっている。

「倫子のいう事なんか信じない。
俺だってもう、我慢の限界なんだ……。」

「あっ、だめだよ、直人。」
 顔を近づけてくる彼。

「本気で嫌なら殴って。
お前の言葉、もう俺信じてないから。」
 若干掴まれた腕の力が緩まる。

「あ、だめ。だめ。」
 腕に少し力をこめる。

それでも
彼の手からはのがれられなくて――――

「あっ…。」
 ふさがれた唇。
彼のぬくもりが伝わってくる。

そのまますぐに唇を離して、
おでこ、頬、首元、手、いろんなところに彼が口づけする。

「あっ、直人…、
だめだって、も、やめ。」

「だから、嫌なら俺のこと殴れって。
手、緩めてるんだから。」
 彼が私をまっすぐ見つめる。

壁に抑え込まれている私の手。
確かに彼は腕の力を緩めているのだけれど――――

「でも、私が腕力入れると、直人力こめるじゃん……!」

「ん?」
 彼は聞こえないとばかりに私にまた口づけをする。

「……いやなの?」
 彼は私の顔を覗き込む。

直視できなくて、私は顔を背けて、

「いや、とかじゃなくて、とにかくだめなの…!」
 今できる必死の抵抗。

「ふーん……。」
 彼はそう言うと、パッと私の手を離した。