「本当におめでとう、お姉ちゃん。」

「ありがとう。」
 式の前室、私はきらびやかなドレスを着た姉に挨拶をしていた。

たくさんの化粧品が並ぶ化粧台の前に座る姉。
白いウェディングドレスも綺麗だったけれど、オレンジのひまわりを思い浮かばせるような鮮やかなドレス姿も劣らず綺麗だった。

今は3月だけれど、聞けば旦那さんと出会ったのは夏でそれをイメージしてとのこと。何がともあれ、優しそうに微笑む姉は本当にきれいで、幸せそうだった。

「俺、ちょっとトイレ行ってくる。」

「行ってらっしゃい。」
 旦那さんが部屋から出ていく。

「旦那さん、めろめろだね、お姉ちゃんに。」
 くすくす笑う私に

「そうでもないわよー。」
 と答えながら満更でもなさそうな姉。

「よかったね、お姉ちゃん。」


「……倫子は?」 
 幸せな空気感が、彼女のそのたった一言でがらりと変わった。鏡越しに目をあわせていたのに、その言葉をきっかけに姉は私の方を直接振り返ってみてくる。

少し黙って、私は話し始めた。

「もう終わったよ…。
電話で、ちゃんとお別れしたから。」

「…。」
 姉は立ちあがって、大きく広がったドレスを掴みながら私が座っていたソファのすぐ隣へ腰かけた。

「直人くんはなんて?」

「……何も言わないでって私がいったから、何も……。」
 姉の顔を見れない私。

「…本当にいいの?
別れたいっていうのが、倫子の本心?」

「いいの。直人も、近くで支えてくれる人と一緒になったほうが幸せになれる。
私なんかさ…。」
 私の手をお姉ちゃんは握った。グローブ越しにでも伝わってくるお姉ちゃんのぬくもり―――。

「ばかね、涙が物語ってるじゃない、すべてを。」

「あ…」
 私の目から涙が一粒ポトン。
着ていたドレスに小さなしみを作る。