「…ちゃんと食べてる?」
一番気がかりだったことを彼に聞いてみた。
画面越しに見る彼は変わっていない。
茶色がかった髪も、ふわふわのその髪質も、眼鏡も、レンズの向こうの優しい瞳も。
気持ちほっそりして見える頬以外。
「大丈夫だよ。」
彼は笑った。
「カレー食べなよ…?」
「うん、ありがとう。
…倫子は食べてる?」
「私?」
彼は悪戯な表情をした。
「手で隠してるから、顔色分かんないんだよなあ。」
「……だって。」
「ほら、恥ずかしいのはわかったから顔見せてよ。
そのためにテレビ電話許したんだけどな。」
彼の穏やかな口ぶりに、私はゆっくり手をとった。
直人はほころぶようにして笑う。
「倫子だ。」
甘い甘い、私を呼ぶ声。
「直人。」
思わず私もそう名前をよんだ。
「倫子。」
彼がまた愛しそうに私を呼んでくれる。
「……あんま食べ過ぎんなよ。」
ハハハっと彼は声をあげて笑った。
「もう!」
私は大きな声で怒る。
「怒んなって、冗談だよ。」
笑いながら私をまたからかう声、私は「許さない!」とまた声をあげる。
でも私も彼と同じ表情。
本当は、そんなやり取りがすごく嬉しい。
そんな彼の冗談のおかげで私は気が落ち着くと、最近あった面白い話をした。
この間どこそこでこけたとか
町で聞いたくすっとした会話とか、他愛もないこと。
話をすると彼は必ず笑ってくれるのだけれど、私が話したあと彼は決まって私に言う。
「ほんと倫子は天然だね。」
でもそんな風に彼にからかわれるのが私は嫌いじゃなくて、たまっていた面白い話を次々と彼に伝えた。