「ただいま。」
 傘をしまって靴をぬぐ。

「クワズイモ君、彼から連絡が来ないのです。」
 テレビの横の、少しあれから大きくなったクワイズイモ。
寂しいとき、つい話しかけてしまう。

こんな時、彼にどうしようもなく連絡してしまいたくなるから、私は大好きな歌手の歌を聞く。

甘いあまい歌詞に、目を閉じて。
彼もこんな風に思ってくれてるのかな、そう考えてしまったりしながら。


すると、音が急に止まった。
閉じていた目を開けると同時に、信音が鳴り始める。

「直人…。」
 私は通話ボタンを押す。

「お疲れー、ごめん連絡遅れて。
もう3時かあ……ふはぁ。」
 あくびをこぼした彼。

「直人…。直人。」
 私は彼の名前を呼ぶ。

「……なに?可愛い。寂しかったの?」
 彼がくすくす笑う。

「うん。寂しかった。」
 黙った彼。

「……俺も、寂しいよ。」

「うん……。」
 一瞬空気が重くなる。

何回このやり取りをしただろう。
寂しい、会いたい、私たちの口癖だった。

でもそんな空気が彼は好きじゃないから

「あ、じゃあね、俺の最近はまってる歌教えるよ。」
 って言って、楽しい時にすぐに変えてくれる。


 彼は3曲ぐらい教えてくれた。
それはどれも遠距離をうたったもので。

男性歌手のもので。まるで彼が私を思って歌ってくれているようで。実際、彼は教えてくれた直後に、電話越しにすごい大きな声で1曲熱唱してくれたのだけれど。

それだけで、寂しい気持ちも少し薄れて、愛しい思いに変えてくれるのだった。