ばかって言う君が好き。


まだ続く電話。
焦った様子な直人。

「転居先の…」ブチ

でもまた時々なってしまうスピーカーモード。

「…………城田君も隣に」ブチ

すぐに解除して、すぐにまた開始されて。

背を向けた彼。
電話を聞かれまいと頑張っているようだが、
携帯は当然直るはずもなく。

「……もういいよ。」
 私は呟いた。

「直人、もういいよ。」
 私の目を見つめる彼。

「り…んこ?」

「それでね神沢君、えっと」
 お偉いさんの声が響く。

「ごめん、直人。ちょっと先、帰るね。ごめん。」
 私は笑って、

「倫子」とつぶやいた彼に返事をせず、そのまま先に家に帰った。


当然帰る家は同じなわけで。私が帰った20分あとぐらいに彼が帰ってきた。
私は机の前のいつもの位置に座っていた。

「ただいま。」
 リビングに入ってきた彼。

「おかえり。」
 いつもと同じ口調で答えた。

彼はすぐにキッチンに立って、間髪いれずに話始める。

「倫子、今日何にする?」
 触れないあなた。

「カレー俺、作るよ。」
 触れないあなた。

「直人。」

 目を合わそうとしないあなた。


「倫子はさ、そこ座ってていいからさ。」
 彼はキッチンへ向おうとする。

「直人、いいから。ちょっと来て。」
 目が合う。

彼は私の隣へ、いつもの位置だった。
正座する彼。うつむく瞳。

彼の手を握る。

「……引っ越し手続き、終わりそう?」

「……あ、うん。えっと、27日に。」
 絞り出すようにして、彼は声をだす。

あれから何日たったっけ。

「うん知ってる。書類見ちゃった。ごめん。」

「いや、それはよくて。別に。」
 目が合わない。

「直人……こっち見て。」 
 目が合わない。

「私見て?」
 目が合う。

申し訳なさそうな悲しそうな複雑そうな目をしている彼がそこにいた。

「……ごめんね、そんな顔させちゃって。
もう逃げるのやめよう。

ちゃんと話そう、私達。」

「倫子…。」
 抱きしめてくる彼。涙を流す私。


「ごめんね、直人。


話聞いてくれる?」

「うん。」
 彼はぎゅっと、もう一度私を抱きしめた。