「……調子悪い?ちょっとはけようか!」
彼は私を引っ張って立ち上がらせると、すみませんと何度も謝りながら人ごみをかきわけた。
座るベンチを探しながら、
「ちょっと人多かったよね、人酔いしちゃうよね。」
彼はそう言う。
本当は違うのに。
その本当を誤魔化すように。
でも、彼も気づいてる。
私も気づいてる。
「あ、倫子。あそこに座ろう。」
彼は指をさして、メインからは少し外れた席に腰かける。他のお客さんをちらほら見かけるだけだった。
「今日は、楽しかったね。」
「うん。」
本当に?
「また来ようね。」
「そうだね。」
またなんてあるの?
「帰ろうか。」
「うん。」
どこへ?いつまで?
ベンチを立って、手をつないで。
私達は同じ家へ……
チャララララ、彼の携帯が突如鳴る。
「あ、ごめん、俺だ。ちょっとごめんね。」
私はいいよっていう代わりに微笑む。手をつなごうと振りあげた手をおろす。
「もしもし。」
ベンチに座りなおす私と彼。
「はい。……はい。」
お偉いさんからの電話のようで。自然とぴしっと背筋を伸ばしている彼。
「はい、はい。」
長引く電話、さすがに緊張がとけたのか彼は応対しながら変顔をたまに見せてくる。
くすっと笑いが出そうになりながら、だめだよと彼の肩をたたいた、
その時、
「いやー今度の○○での活躍も期待してるからね、神沢くん!」
フロアに響く、電話越しのお偉いさんの声。
「あ……」
一瞬やばいという顔をした彼。
すぐに取り直して、スピーカーモードを解除しまだ続く受け答え。
聞こえていないふり、まだするんだ。
私はそう思った。
直人の携帯壊れてるから5分以上電話続いたら、スピーカーモードに勝手になるんだっけなぁ、ぼんやり思った。


