4月にはいった。

それまでは週1ぐらいで会うペースだったのに、4月に入ってから今は半同棲のようで、
彼は毎日私の家に帰ってくる。

「ただいま。」
 帰ってきた彼は、ネクタイを緩めていた。
ふわふわな髪も、お仕事から帰ってきた夜は少しだけ落ち着いている。

声のトーンも低くて、下がった眉も、くもった目も…

疲れているんだろうな、そう感じてくるのに

それでも彼は、

私が「おかえり。」って言う前に私を抱き締めて、ぎゅっとして、

「はあ~倫子だあ~」って。

顔を見合わせて笑いあって、
「おかえり。」
 そこではじめて私は口にする。

そのときの彼の表情がほっとしたような、幸せそうな、なんともいえない表情をするもんだから、私は最近彼より早く帰れるようにあわせている。

「おかえり。」そう言いたい一心で。
彼のその表情が見たくて。


「今日のご飯何ー?」
 かばんを置いた彼。

「ハンバーグだよ。」
 ソースをハート型にした私。
ご飯をおいしく食べて、テレビを一緒にみて。

「このお笑い芸人すき!直人は誰が好き?」

「んー、倫子が好き。」

「ばか。」 
 なんて冗談を言って笑いあう私達。

テレビを見るときも手をつないで、彼の肩に顔をうずめて、においにも抱きしめられて。

「大好き。」思った時に伝えれる。
彼からもことだまのように同じ言葉が返ってくる。

あー幸せ。そう馬鹿みたいに思える毎日。
笑いあって、ずっと一緒って思える毎日。


……でも気づいてる。私も直人も。

あれ以降

仕事の話も、
これからの話も触れていないってことに。

あれは嘘だったんじゃないかなって思うのに、彼の鞄に入っている引っ越し日27日と書かれた資料をこっそり見る度、

あー本当なんだと実感してしまうのだった。