「……クワズイモちゃんと元気でしょう?」
 テレビの横に置いて、育てているそれを見る。

背丈、まだ数メートルほどの植物。

「うん。安心した。
クワズイモほしいって言われたときは、何、それ?って思ったけど、部屋に植物あるっていいね。」

「でしょ?
でもね、クワズイモはお水がたくさんいるから、いっぱいあげてるんだけど、葉から雫が落ちちゃうんだよね。
タオル敷いてるんだけど、追いつかないや。

まぁちゃんとこれからも育てるけどね!
だから、クワズイモ見に来なくても大丈夫だよ。」
 安心してとばかりに微笑んだ。

一方の彼は私の手を握ってくる。

「うん。

……でも、あのな倫子。
俺が今日来たのはクワズイモのためじゃなくて。」
 私は笑う。

「知ってるよ、クワズイモが理由じゃないことぐらい。

それで、何?」
 もたれかかるのをやめて、私は直人の顔を見つめる。

「……ずっと言えなかったんだけど。」

「うん。」
 見つめあう私達。


「俺、転勤決まってさ……」

「え!?うん、おめでとう!
あれかな、前話してたとこ?隣の町の。」
 付き合いたてのころ、希望の部署が隣の町で順調で彼もそっちに勤務したいと言っていたのを覚えている。

「そっかー、今みたいに会えなくなるけど、直人がやりたいことなら応援するよ。」
 彼の手をぎゅっと握り返す。

「倫子……違うんだ。」

「ん?」


「……なんだよ。」


「え?」


「だから、転勤先……なんだよ。」

 彼は私の顔を見ていなかった。


「……ご、ごめん。
私、勘違いしてて。えっと、それでどこっていったけ?

え?」

「倫子……。」
 彼は私を見る。

私は彼を見ない。


聞き間違いじゃないなら、彼が言ったとこは、バスで片道13時間もかかるようなところ。

新幹線でも5時間、お金の都合、時間の都合……。
きっと2、3か月に1回会える程度になってしまう。

お願い、聞き間違いであって……


「○○なんだ。」


あ……聞き間違いじゃなかった。

そっかあ……、途端に流れる涙。


「り、倫子…。」

 何も言わない私。

「1か月前から転勤の話出てて、俺は希望しなかったんだけど、期待してるからって言われて断れないことでさ。」
 何も言えない私。

できるのは彼の苦しそうな声を聞くことだけ。