「何作ってくれたの?」
 カバンを机の横に置くと、彼がいるキッチンへ向かう。

「カレーとスープとサラダ。
ちょっと冷蔵庫のもの使わせてもらったけど、大丈夫だった?」
 見ると、カレーをぐるぐるとまわしながら温め直してくれている。

「大丈夫だよ。」
 私は彼の背中に抱き付いた。

「……」 
 あ、れ?

「直人?」

「ん、なに?」

「いや、何でもないけど…」
 いつもなら、今日はよく抱き付きますねとかってからかってくるところなのにな。

直人は特に何も言わないまま、黙ってお皿にカレーを盛ってくれている。

まぁ…気にすることでもないか。


「いただきまーす!」
 食べはじめた私達。

でも美味しいねって最初言い合うだけで、二人とも食べているときは特にお話ししないからすぐに食べ終わって、

「ごちそうさまー!」
 そう二人そろって早々に食事を終えた。

食器を片付けようとする彼。私は彼の手を上から握って、「これは私の役目!」とお皿を取り上げた。


私がお皿を洗っている間、彼はテレビも見ずに私を見つめてくる。

「なに?視線を感じます……。」

「俺が見つめてるからです。
倫子のとこも対面キッチンだし、やっぱ顔見えるっていいよね。」

「そうだね。」
 片付け終わった私は手を拭いて、彼の隣に座る。

「コーヒーどうぞ。」

「ありがとう。」
 彼は持っていた携帯を机に置いて、カップを手に取った。

「最近さ、携帯調子悪いんだよね。」
 彼が机に置いた青いスマートフォンの携帯。

「大丈夫なの?」

「なんかさ5分以上電話したら、勝手にスピーカーモードになるんだよね。」

「何それ?」
 冗談かと笑ってしまう。

「いや、ほんとなんだよ。やってみる?」

「いやだよ。自分の声聞きたくない。」
 それでも試してみようとだだをこねる彼。

いやですーとじゃれあいながら、そのまま私は彼の肩によりかかった。