その日、私は朝からケーキを作っていた。ちょっと大人な味のチョコレートケーキ。

「お昼からの天気もこのまま夜にかけて、雪が続きそうです。

さて、今日はバレンタインですが、前川キャスター誰かに貰う予定はありますか?」

「いえ、残念ながら……」
 テレビの中もバレンタイン一色のようで、本当に残念そうな顔をしたキャスターの顔を見て、もらえるといいですね、なんて思いつつ私はテレビの電源を落とす。

部屋の電気を切って、カーテンを閉めて、

「よし!」
 完璧にラッピングし終えたそれを持って鍵を閉めた。


『今から、直人のおうちへ行くよー』
 すぐに既読がつく。

『は~い。待ってまーす!
チョコレート♪』

「ばか。」
 語尾についている揺れる音符を見て思わず笑ってしまった。


ピンポーン。
彼の家にたどり着いて、玄関のチャイムを私は押した。
彼の家まで電車で2駅。何回か分からなくなるぐらい遊びに来たはずだけど、

やっぱり彼が出てくるまで、“あれ”をしてしまう。

「今日は、子供は遊んでますか?倫子さん?」

「みんなチョコレートを貰いにいってるようです、直人さん。」
 二人で笑いながら、

「やっぱり今日も塀から下の公園覗いてるんだから。」
 と迎えてくれた直人にからかわれた。

ローテーブルに座って、何も言わなくても、お茶を出してくれる彼。

「バレンタインを授けます。」
 近くに寄ってきた彼に私はえっへんという口調で声をかける。

「ははー!」
 わざとらしく、頭を垂れる直人。

「うわあ、うまそう!包丁持ってくるわ!」
 すぐにラッピングを丁寧に開けた直人がうれしそうに、ケーキを切ってくれる。

「おいしいー!」
 そういって笑う彼を見て、誰かに料理を作ることってこんなにも嬉しいものなんだと知った。