例えばあの日雨が降っていたら、
彼は私の家に来るのをやめたかもしれない。

例えば先輩が気持ちをもっと早くに伝えてきていたら、私は今違う道を歩んでいるのかもしれない。

例えば例えば例えば―――どれかが欠けたら今の私達はいないわけで、

電話だってお話だって
幾度となくしてきたけれど、
1つ欠けたらどちらかが不安に陥って、うまくいかなかったのかもしれないのだ。

「来てよかった。」
 そう思うと、彼の一つ一つがひどく特別なものに感じられる。

「うん。」
 ずっと、これからも。

私はおにぎりを食べ終わり、もう1個食べようとお弁当箱に手を伸ばした。

「あれ?もうない?」

「ごめん、食べちゃった。」
 もぐもぐとどんぐりを口いっぱいに含んだリスのように、ほっぺたを膨らませた彼。

「あ!鮭食べたい!ちょうだいよ!」
 ごくんと飲み込んだ彼。

「ごめん、もう無くなった。」
 手をぱーっと開いて、もう無くなったことを示してきた。
言葉とは裏腹に悪戯っぽい表情だった。

「もう!」
  ばかと怒りながら、彼の後ろに見える4人のご家族が目にはいった。

私達だけじゃない。
彼らも、いやここにいるたくさんの人が
すごい確率が重なりあって、今誰かとここにいれてるんだ。

私はきゅっと彼の左手を握った。


「「来年も一緒にこようね。」」