ばかって言う君が好き。



 春を感じさせる陽気。朝のニュースでは、3月の気温だと報じられていた。

上手くいかない時に限ってのそれは、ただ惨めさが募るだけ。いっそのこと雹でもふってくれれば、雰囲気に酔いしれるのに。

朝のコーヒーを飲みながらそんなことを思った。

「いってらっしゃい。」

「いってきます。」
 あれから3日、私たちの間には気まずい雰囲気がまだ続いている。

一秒一秒が重くて、話しかけるたびに神経がすり減っちゃうような感覚。

いつもならいってらっしゃいの後軽く何か小言を話していたのに、今日も彼は沈黙に支配される前に手を振って、玄関の扉を閉めた。

バタン。

そんなに強く閉まらなかったのにずしんと頭の中に音は響いて、私までシャットアウトされたような感覚がした。


「井川、ここミスってる。」

「申し訳ありません、すぐやり直します。」
 部長に指摘されたのは、データの打ち間違え、滅多にしないようなミス。

「…はあ。」
 世話しないオフィスに私のため息はかき消される。

誰にも聞こえなかったことに半分安堵、半分ぞんざいな扱いぽくて、また心がきつくなる。

でも私は手だけは止めず、カタカタとキーボードを打って打って打って。
何かに似ていると思った。

話して話して話して。

終わらない仕事みたいに、解決できないことだってあるのかもしれない……。

「リンリン、大丈夫?なんか顔色悪いよ?
珍しいミスしてたし。」

「大丈夫です、ちょっと疲れ溜まってるみたいですけど。
お昼休みちょっと息抜きします。」
 心配そうに声をかけてくれた先輩に、勘づかれてしまわない様、ありきたりな言葉を適当に並べて私は笑って返事した。

にこっと笑ってまた自分の仕事に戻った先輩。
私もまた手を動かし始めて。

話しかけられて一瞬消えた彼との事。

でもそれは一時消えるだけで、私の頭にすっと入ってくる。置き去りになんてできるものじゃなかった。