ばかって言う君が好き。


 なんで草履で出てきてしまったんだろう。
かかとを踏んででも、スニーカーを履いて来ればよかった。もっと早く走れたのに。

「はあはあ。」
 月明かりに照らされた道を走りながら、そんなことを考えていた。

「倫子!」
 背中から私を呼ぶ彼の声が聞こえた気がした。
でも声だけで、足音は聞こえてこない。私は振り返らずに、走るスピードを上げた。

いつもの道200メートルほど走って、私はもっと細い脇道に入った。2年前、よく通っていた道だった。

15分ほど走っただろうか、行く当てもなく何も持たないまま家を出て、たどり着いたのは公園だった。


「はあはあ。」
 ブランコと滑り台しかない公園に、乱れた呼吸の音だけが響く。しばらく来ていなかったけれど変わっていなかった。

マンション街が近くだというのに、人気はない。

「こんな寒い日に外を出ようだなんて誰も思わないか。」
 自分を嘲った。

立ったまま、私はブランコの支柱の中の一つにもたれかかる。座ってしまいたかったけれど、私は立ったまま、うつむいて地面をただ眺めた。


なんでこんなところに来てしまったんだろう。よりにもよって、こんなところに。

でも見つからない。
きっと彼はここに私がいるとは思わないだろう。

1時間、いや30分、15分でもいい、今は彼の顔を見たくない。

帰って直人に会って、そしたら彼はなんていうだろう?また彼の弁解を聞かなくちゃならないんだろうか。

そして私、彼を許すのかな。
泣くだけで、彼に怒らないで、ただ言葉通り受け止めて。抱きしめて、キスして。

嘘をついているかもしれない人を…?

あんなに走ったのに、息が整うにつれてだんだんと体がひえてきた。

厚手の部屋着に身を包んでいたのが幸いだけれど、雪がちらちらと降り始め、一層私の体を冷やした。