ピンポーン
音と共に降りてきた、数人乗れるほどのエレベーター。
中に入って、6階のボタンを押す。


……緊張する。

 私は今日彼の住むマンションに遊びに来た。
10階建てのマンション、茶色のレンガ模様なおしゃれな外装。私のアパートからそれほど遠くなくて、2駅ほどのところにある。

今まで何度か彼の家にお邪魔させてもらったことはあるのだけれど、彼の家が“デート場所”というのは初めての事だった。


ピンポーン
他の階にとまることなく、6階に到着。

エレベーターを出て、すぐ右に曲がる。1つ、2つ、他の住人さんの部屋の前を通り抜ける。
3つ目を過ぎて、彼の部屋。
1番端っこの彼の部屋。

インターホンを押す。

「今開けるね。」
「うん。」
到着する前連絡しておいたからか、名前を言わずとも私だと分かったらしい。


ばたばたと彼の足音がかすかに聞こえてくる。

彼を待ちながらじっとその数秒が待っていられなくて、塀から顔をのぞかせ下の公園をのぞく。

ブランコと滑り台、それだけしかない本当小さな公園。


ガチャ

「いらっしゃい。」

「あ、お邪魔します。」

「何?また公園?」
すぐに振り向いたのにバレてしまったみたいで、彼はおどけた口調でそう言った。

「子供がね、ブランコ漕いでて。
直人とああやって前ブランコこぎながらお話したなって。」
 履いてきた黒のパンプスを隅にそろえる。

彼は相変わらずのスニーカー以外、玄関に出していなかった。

「倫子は公園好きだからな。」
 子供だなぁと私をからかいながら、

「もー」とすねた私を「はいはい。」とさとすのだけれど、

彼はやっぱり優しい人で、

「また行こうね。」
 と笑った。