「市販のチョコから、手作りまでいっぱいあるよ。倫子好きなクッキーとかあるし。」
手作り…?
やわらかいそれに、中身はトリュフだとすぐに気づいた。今度の包装紙はオレンジ色だった。
「みんなもらうの?」
彼はまた別のを口に運んでいたけれど、私は食べる気がしなかった。
「うん、そりゃね。気遣ってもらわなくてもいんだけどね。
まあ倫子にご飯作ってもらってるし、お菓子までねだるわけにはいかないから今年はちょうどよかったかな。」
笑ってそう言う彼。
バレンタインを少しもにおわせなかった私に、彼は私が用意しないつもりだと何日も前から思っていたのかもしれない。
サプライズなんてしなければよかった。
「単純に今年はケーキまた作るつもりだから」って、ずっと前から言っとけばよかった。
今日の朝だって、
「ケーキもう作ってあるから、早く帰ってきてね。」
そう言えばよかった。
「作ってるよ!」
今でもおそくない。そう言いたい。でも言えない。
彼が鞄から取り出した一際赤いビニールの袋から、三角に切られたケーキが見えたから。
「ケーキって……みんなすごいね。」
トリュフを持っている手が若干震えた。
「ね。」
直人、食べるのかな。
そのケーキ食べるの?
あ、食べた…。
「うま。倫子も食べる?」
なんの裏も感じさせない顔で、彼は私にそれを差し出した。
「私はいいや。」
トリュフで十分だよと伝わるように、包装紙を開けて、それを口にいれた。
少し苦いココアパウダーが口に広がって、ゆっくりと溶けていった。
ケーキを食べるよりかはましだった。


