ばかって言う君が好き。


「今日は早く帰って来てくれない?」
 自分で言うのもなんだけれど、彼に早く帰ってくるように促すなんて珍しい。

どうしたの?とか、寂しいの?とかいつもの調子でまたからかわれるかと思っていたのだが、若干戸惑った表情を一瞬して彼は優しく微笑むだけだった。

私が不安そうな声で言ってしまったのが悪かったのかもしれない。彼を先に見送って、私も15分ほどしてから会社に向かった。


残業を何としてでも阻止しようと、この日私はいつも以上に頑張り、30分早く帰宅した。

見かけたどこかのお店のショーウィンドウは、バレンタイン一色。ピンクを基調とした装飾はきらきらとまぶしかった。

チョコレート味のホイップクリームを買おうとちょっと寄ったコンビニでさえ、チョコレートがたくさん並んでいた。帰っている途中にカップルがよく目についたのも、この日ならではなのかもしれない。


 昨日作って、月曜日の今日渡す。
学生の頃の私なら、月曜日がバレンタインでよかった、そう喜んでいるのだろうけど、今の私は月曜日なのがひどく憎い。

もっと中途半端な曜日なら―――わざわざ夜遅くまで起きて作るなんて、相当気持ちのある相手にしか送ろうとしないはずだから。

玄野さん、きっと直人に……


 カギを回して、彼がまだ帰っていないことを確認すると、私は冷蔵庫に隠していたケーキと、苺のパックを取り出す。

ホールケーキを半分に切って、買ってきたチョコレートのホイップを中に絞ってはさんだ。
苺のパックも洗って、へたをとってスライスに切ったそれらを、丁寧に並べていく。

「できた。」
 完成した喜びから思わず出てしまった言葉と共に、引き出しに入れていた箱型のラッピングにケーキを入れて、冷蔵庫に再びしまった。

これで彼が冷蔵庫を開けたら、ちょっとしたバレンタインドッキリ成功。
今ではもう毎晩彼にご飯を作ってるくせに、久しぶりにちょっとドキドキしてる。
喜んでくれるかな。

私は彼が帰ってくるのを待ちながら、カレーを作り始めた。