母から貰った、若干黄ばんでしまっているレシピ本で私はケーキを作った。
1年目にあげたものと同じ、小さい頃、私の誕生日にもよく作ってもらっていたものだ。
あちこちに小麦粉やら生地やらがひっついてしまって、甘いにおいがこびりついてしまっている本を私はしまって、作ったケーキを彼に見つからないよう、冷蔵庫の奥深くに隠す。
去年はあげられなかったバレンタイン。
簡単にクッキーでも作って、写真だけ送ったっけ。
彼はきっとまた笑顔で喜んでくれるのだろう、屈託のない、あの表情で。
でも私は?
不自然に笑ってしまわないかとそればかり心配だった。
ちょうど隠し終わった頃、直人は家に帰ってきた。
「ただいま、倫子~。」
「おかえり。」
腕を広げて、私に抱き付いてくる彼。
3年も付き合うと男の人は愛が覚めてくる、そうどこからか聞いたことがあってそうなるだろうと私はどこかで諦めていたのだけれど、彼は相変わらず付き合い始めの調子で、こうして私に愛情を表現してくれる。
まあもし“そう”なら愛ではないのかな。
ごまかし…?になってしまうのかな。
私は彼の背中をぎゅっと強く抱きしめ返し、離れた。
「ごはん食べた?」
「麻婆豆腐だった。」
上機嫌な彼はメガネをとると、寝室に入った。
「お風呂入ってきたの?」
「うん、入った。もう着替える。
倫子…のぞいちゃだめだよ。」
顔だけのぞかせて、口元をゆるめている彼。
「ばか。」
つられて笑ってしまう私。
姉に言った、子供っぽいもあながち嘘ではないかも。
「倫子もお風呂入ったんだよね?」
「うん。」
「もう今日寝ない?」
「いいけど…。」
いつもより2時間ほど早い、寝に行く時間。帰省するのに疲れたのかな。
私は横になっている彼の足元の布団をはがして、足をもんだ。