「私の方がお礼言いたいぐらいですのに…。」

「なんで?」
 苦笑まじりの先輩。私の手はすっかりペースが落ちてしまっているというのに、先輩の一定のリズムで打ち込む手は止まらない。

「なんでって……。」


 週末が明け、月曜日、先輩とはじめて顔を合わせたとき、私たちはうまく言葉を交わすことができなかった。

私は何て言ったらいいのか分からずに、先輩は何て謝ったらいいのか分からずに。

「もう、仲直りできたので気にしないでください。」
 私がそう言えたらよかったのだけれど、私は言うことができなかった。

「ごめんな、俺のせいで」そう物語る表情が、私の言葉のせいでもっと苦しめることになるかもしれないと思ったから。100パーセント俺が悪い、そう背負い込んでしまっている先輩を――。

 それから数日、確か週末に入る前の日、先輩がお昼に声をかけてきてくれた。

「リンリン、サンドイッチいらない?」
 ポンと机にそれを置いた。

卵とハム。私がよく食べていたお昼メニューだった。

「あ、ありがとうございます。」
 でも、くれたのはサンドイッチだけじゃなかった。
真四角のピンクの付せんが、サンドイッチの底についてあった。

『仲直りしてくれませんか?
リンリンとは笑って仕事したいんだけど…。』
 私は隣に座った先輩をちらっと見た。先輩は書類に何かを書き留めていた。

でもその横顔は、会議しているときの先輩の顔にひどく似ていて、私の反応を緊張しながら待っているのだと私は気づいた。

私が切り出すべきなのに、渡辺先輩―――。

「サンドイッチいただいたので、おにぎり一つおすそ分けしますね。」
 私はラップにくるんでいた鮭が入ったおにぎりを、一つ差し出した。

くしゃっと笑った先輩の表情を見ながら、私は先輩のようにできないと悟った。

どうしたらいいか分からずに、私はただ相手の反応をうかかがって、時が過ぎるのを待つだけなのだろうなと思った。