「あ、おかえり、直人。」

「ただいま。」
 直人は、私の隣に座っている先輩をのぞいた。

「渡辺さん…ですよね?
だいぶ前に御社とお仕事させていただいた神沢です。」
 先輩はすぐに立ち上がって、私も続いた。

「お久しぶりです。
こんなところでお会いできるなんて。

井川と共同の企画の際には、大変お世話になりました。ありがとうございました。」
 手を差し出して握手する直人と先輩。手を放してすぐ先輩が、私にきょとん顔で聞いてくる。

「あれ?リンリン買い物って、神沢さんと?」

「あ、はい。」
 私はこくこくっとうなずいた。

「もしかして、同棲してる人って…。」

「俺です。」

「そうなんだ!びっくりしたなあ。」
 私は少し恥ずかしくなって、ごまかすように笑った。

「そっかそっか…。
じゃあせっかくのデート中お邪魔しちゃわるいし、そろそろ俺行くね。」

「いや、そんな!」

「いいのいいの。リンリンまた明日ね。
神沢さんも、また機会がありましたらよろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」
 先輩は手を軽くふって、角を曲がって去っていった。