すっかり冬仕様になっている、ショーウインドウに飾られたマネキンの前を通り過ぎ、私たちは自動ドアに身をくぐった。
「買い物!」
彼は繋いでいる手を大きく振った。
「直人、はしゃぎすぎ。」
彼の様子に思わず笑みがこぼれる。
今日、私達は近くのデパートに買い物をしに来ていた。彼は新しい服がほしかったらしい。
「倫子、選んでよ。」
「いいよー。」
そう言って彼の服を選んでいたのだけど、私の服も彼が選んでくれることになったりで、どんどんどんどんたまっていく買い物袋。
「楽しいね。」
口癖のように、私は何度もつぶやいていた。そして、彼も「俺も楽しい。」そう言ってくれていた。
「ごめん、ちょっとトイレに行ってきていい?」
「いってらっしゃい。」
彼の背を見送って、私は近くにあったベンチに座った。
いっぱい買っちゃったなあ……。
持っている買い物袋は、すでに両手いっぱい。
帰ったら、直人とファッションショーかな。
くすっと笑いそうになってしまう。
こんなに買い物したのいつぶりだろう。私も直人もめったに買い物しないから。
袋の中をちょうどのぞいていた時だった。
「あれ、リンリン?」
「……え?」
突如私の名前を呼ぶ声が聞こえた。この呼び方をする人は1人しかいない。
「渡辺先輩?」
「何やってんの?こんなところで?」
先輩は空いていた私の横に座った。
「買い物中です。いっぱい買っちゃって。」
手に提げている袋を彼にアピールする。
「うん、すごい量だね。」
苦笑する先輩。週末にもかかわらず、黒いシックなスーツに身を包んでいた。
「先輩こそ、何やってるんですか?」
「ちょっと会談。それ終わって、夕食買いに来たところ。」
相変わらずお仕事熱心だな……
そう思いながら「お疲れ様です。」と私は気持ちを込めて返した。
「あ、そうだ。リンリン――――」
「?」
何だろうと首をかしげた時だった、私の肩をポンポンと誰かが叩いた。